遺言書

遺言書は、財産をどのようにわけるか明確に意思表示でき、遺言の内容を実現する遺言執行者も指定できる

遺言書とは、財産を所有する人が自分の死後にその財産をどのように分けるかの意思を示したものです。 遺言書では、自分が渡したいひとに財産を譲ることが可能となります。遺言書がない場合は、故人の遺産の分け方についてを相続人全員で話し合い、決定することになります。

公正証書遺言を作成する際、ご自身で手順を調べて作成することももちろん可能ですが、作成段階で専門的な知識があったほうが安心です。

また、遺言執行者を遺言書で指定することで、相続手続きが圧倒的にスムーズになります。せっかく遺言書を作成するのであれば、ご遺族のためにも遺言執行者を指定することをおすすめします。

行政書士など士業に相談することで、遺言作成の手続きをスムーズに進めることができます。遺言書に相続の希望を的確に反映させ、遺産相続におけるトラブルを未然に防止するためにも、専門家に相談をすることは大切です。

遺言書の種類

遺言書には、普通方式と特別方式があります。

  • 普通方式による遺言には、自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言があります
  • 特別方式による遺言には、一般危急時遺言、難船危急時遺言、一般隔絶地遺言、船舶隔絶地遺言があります

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言書の全文、日付、名前を自分で書き、印鑑を押すことで作成できます。非常に簡単に作成できますが、書類に不備があると遺言書の内容が無効となるので注意が必要です。

また、遺言者の死後、遺言書を家庭裁判所で検認しなければならないので、相続人に費用と時間の負担が多少かかるといえます。

「検認」とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。

自筆証書遺言のメリット
  • 何回でも作成できる
  • 遺言書を作成したことを誰にも知られずにすむ
  • 費用がかからない
自筆証書遺言のデメリット
  • 内容に不備があれば無効となってしまう
  • 勝手に書き換えられたり、捨てられたり、隠されたりするおそれがある
  • 家庭裁判所の検認が必要となる
POINT

自筆証書遺言は手軽に作成できますし、何回でも書き直すことができます。作成するための費用もかかりません。しかし、遺言書の内容に不備があると、せっかく考えた遺言が無効となってしまいます。その場合は、相続人全員で遺産分割協議を行います。あれこれ考え、時間をかけて遺言書を作成しても、無効になってしまっては効力が生じないので、市販の遺言書作成キットなどを購入して慎重に作成するか、専門家のサポートをうけて遺言書を作成することをおすすめします。

POINT

自筆証書遺言は、作成したことを誰にも知られません。しかし、誰も知らなければ遺言書が発見されないおそれがあります。ですが、発見しやすい場所に保管していた場合、遺言書の内容を勝手に見られるおそれがあります。勝手に見られるということは、書き換えられてしまう可能性があるということ。また、捨てられてしまったりするおそれもあります。遺言書の保管方法については、専門家から助言を受けることをおすすめします。

秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言が存在するということは明らかにしますが、その内容については秘密にできる遺言です。遺言者が遺言書に署名押印して封印した遺言書を、公証人と2人以上の証人の前に提出します。秘密証書遺言は、自筆証書遺言と異なり、必ずしも遺言者が自書しなくてもかまいません。他人が代筆してもよいですし、パソコンで作成してもかまいません。ただし、署名だけは自筆で行います。秘密証書遺言は、遺言書の内容を自分が死ぬまで他人に秘密にしておきたい場合に選ぶ遺言の方法といえます。

秘密証書遺言は、封印した遺言書が提出されるため、内容は遺言者にしかわかりません。したがって、遺言書に不備があれば無効になります。また、遺言書の保管は遺言者自身が行い、相続のときに開封する場合は家庭裁判所のし検認の手続きが必要です。

秘密証書遺言のメリット
  • 遺言書の存在を明確にできる
  • 遺言内容を秘密にできる
秘密証書遺言のデメリット
  • 遺言書に不備があれば無効になる
  • 相続人の立会いのもと、家庭裁判所の検認が必要
  • 遺言者の保管は遺言者のため、紛失のおそれがある

公正証書遺言

公正証書遺言者は、公証役場で証人2人の立会いのもと、遺言者が遺言内容を述べて公証人に遺言書を作成してもらう方法です。遺言書の原本は公証役場で保管されますので、自筆証書遺言と比べて安全で確実なものといえます。ただ、自筆証書遺言の手軽さに比べ、公正証書遺言は手間と費用が必要になります。

公正証書遺言のメリット
  • 勝手に書き換えられたり、捨てられたり、隠されたりするおそれがない
  • 家庭裁判所の検認が不要になる
公正証書遺言のデメリット
  • 遺言書の存在が他人に知られてしまう
  • 遺言書作成に手間と費用が必要となる
POINT

公正証書遺言の場合は遺言書の原本が公証役場に保管されます。このため、遺言書の内容を勝手に書き換えられたり、捨てられたりするなどの心配はありません。また、家庭裁判所の検認も不要なため、相続人の負担も軽くなります。

POINT

公正証書遺言の作成には、証人2人の立会いが必要です。証人は遺言の内容を知ることになりますので、証人になってくれるひとは秘密を厳守してくれるひとを選ぶことが必要です。

相続人は証人になることができません。また、未成年者、受遺者とその配偶者、直系血族のほか、公証人の配偶者、四親等内の親族、公証人役場の書記、遺言者が雇っている人物も、証人になれません。

証人には、行政書士や司法書士、弁護士などの士業に依頼するか、知人に依頼することが一般的です。頼めるひとが見つからない場合は、公証人役場で紹介してもらう方法もとれます。

行政書士などの士業には守秘義務があり、これに反して情報を外部に漏らせば、罰則が適用される立場にあります。なので、士業に証人を依頼した場合のメリットは大きいといえます。

公正証書遺言の作成方法

  • 行政書士や専門家に相談し、遺言書の内容がまとまったら、公正証書遺言の作成に入ります
  • 遺言者の財産情報や、それをどのような割合で誰に相続させるかの内容、または遺贈の内容、必要書類をなどを、メールや郵送などで、公証人に提出します
  • 公証人が、メモおよび必要書類に基づき、遺言公正証書の案を作成します
  • 遺言者が遺言公正証書の案の内容を確認、修正したい部分があれば、公証人に依頼します
  • 公証人が修正の依頼をその通りに遺言公正証書の案を修正し、確定します
  • 遺言公正証書の案が確定したら、公証人と遺言者が公正証書遺言をする日を確定します
  • 遺言者本人から公証人に対し、証人2名の前で、遺言の内容を口頭で告げ、公証人はそれが判断能力を有する遺言者の真意であることを確認し、確定した遺言公正証書の案に基づきあらかじめ準備した遺言公正証書の原本を、遺言者および証人2名に読み聞かせ、または閲覧させて、遺言の内容に間違いがないことを確認してもらいます。
  • 遺言の内容に間違いがない場合には、遺言者および証人2名が、遺言公正証書の原本に署名し、押印をすることになります。内容に誤りがあれば、その場で修正することもあります。
  • 公証人も、遺言公正証書の原本に署名し、押捺することによって、遺言公正証書が完成します。

公正証書遺言作成時に必要な書類

  • 遺言者本人の3か月以内に発行された印鑑登録証明書

ただし、印鑑登録証明書に代えて、運転免許証、パスポート、マイナンバーカード(個人番号カード)等の官公署発行の顔写真付き身分証明書を遺言者の本人確認資料にすることもできます。

  • 遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本や除籍謄本

財産を相続人以外の人に遺贈する場合には、その人の住民票、手紙、ハガキその他住所の記載のあるもの。法人の場合には、その法人の登記事項証明書または代表者事項証明書(登記簿謄本)

  • 不動産の相続の場合には、その登記事項証明書(登記簿謄本)と、固定資産評価証明書または固定資産税・納税通知書中の課税明細書
  • 預貯金等の相続の場合には、その預貯金通帳等またはその通帳のコピー
  • 遺言者本人が証人を用意される場合には、証人予定者の氏名、住所、生年月日および職業をメモしたもの。

遺言執行者

遺言執行者は、遺言書の内容どおりに相続が実行されるよう、必要な手続きを単独で行う義務と権限をもつ人です。未成年者・破産者以外なら、誰でもなれますので、相続人のひとりが遺言執行者になることもあります。また、遺言執行者の人数に決まりはありませんので、複数人を指定することもできます。

遺言執行者は相続人や相続財産の調査、相続登記の手続き、銀行口座の解約手続きなど幅広く相続手続きを行いますので、遺言執行者がいれば、相続人全員で遺言執行のための手続を行う必要はありません。

遺言執行者ができること

遺言執行者ができるのは以下の行為です。

  • 子の認知
  • 相続人の廃除・廃除の取消
  • 遺贈、遺産分割方法の指定、寄付行為
  • 名義変更手続き、解約手続き

遺言の内容を実現するために、すべてのケースで遺言執行者が必要となるわけではありませんが、遺言によって子を認知する場合、推定相続人を廃除をする場合(または取消しをする場合)は、法律上遺言執行者が必ず必要とされます。

遺言執行者の任務

遺言執行者は以下の通り、執行手続きを進めます。

  1. 相続人や受遺者に、自分が遺言執行者になった旨の通知をします(遺言書のコピーを添付)
  2. 財産目録を作成し、相続人や受遺者に交付します
  3. 遺贈があった場合、受遺者に遺贈を受けるか確認します
  4. 登記手続の手配。登記申請はできないため、司法書士との窓口になります
  5. 遺言通りに財産の引き渡し・名義変更・分配を行います
  6. 相続財産の管理、その他遺言の執行に必要な一切の行為をします

遺言執行者に行政書士を指定するメリット

相続人が相続手続きの手間や負担から解放される

遺言執行者は、就任してから業務の完了までに概ね次のような業務を行わなければなりません。

遺言執行者がいない場合は、相続人が協力して相続手続きを進めなければなりません。また、相続人を遺言執行者にすることもできますが、いずれにせよ、一般の方が専門家に依頼せずに相続手続きを完了させることは、多大なる労力と膨大な時間を要します。

遺言執行者のおもな業務
  • 戸籍等の証明書を収集
  • 相続人の調査
  • 遺言執行者に就任したことを相続人と受遺者全員に通知
  • 相続財産の調査
  • 財産目録の作成
  • 預貯金の解約手続き
  • 売却して分配する財産については換価手続き
  • 有価証券等の財産の名義変更手続き
  • 不動産の所有権移転登記
  • 遺言執行の妨害をしている者がいる場合においてはこれを排除します(訴訟が必要になることも)
  • 相続人と受遺者全員に完了報告を行います

相続人が遺言執行者となった場合はトラブルが生じることがあります
  • 遺言執行者に指定されなかった相続人が、そのことを不満に感じ相続がスムーズに進行できない
  • 遺言執行者が遺産の一部を自分のものにしたのではないかと疑われてしまう
  • 不慣れなため遺言執行までに長期間を要してしまい、相続人から手続きが遅いと文句が出てしまう
  • 専門家を遺言執行者にすると、相続人はこのような精神的負担からも解放されます

相続手続きがスムーズに進行できるので、遺産の受け取りがはやい

相続人のなかに非協力的なひとや多忙で予定が合わないひといると、いつまでも相続手続きが終わりません。また、相続人を遺言執行者にした場合も、慣れない手続きの連続で、手続き完了までに長い期間を要してしまうことも少なくありません。平日に銀行に出向いたりなど、時間的負担も大きいです。

遺言執行の経験が豊富な専門家であれば、相続手続きをスムーズに完了させることができますし、結果的に、相続人が遺産を早期に取得できることにつながります。

遺言書作成」と「遺言執行者」をあわせて依頼し、より一層スムーズに

行政書士は、遺言書文の作成も依頼できる専門家ですので、遺言書の文案作成を行政書士に依頼する際に、遺言執行者についてもあわせて依頼するとスムーズです。実際、遺言書の文案作成をまかされた行政書士は、遺言執行者についてのご説明もしますし、あわせてご依頼されることがスムーズだというご案内もあるかと思います。

近親者が亡くなると、ご遺族は様々な手続きや対応に追われて多忙になりますし、悲しみから精神的な負担も大きくなります。ですから、相続人だけで行う遺言執行はもちろん、依頼する行政書士を探すことさえも手間に感じるかもしれません。

この点からも、遺言書文案作成を依頼した行政書士を遺言執行者に指定しておけば、遺族の負担を減らすことができます。また、行政書士は遺言書文案を作成する際に、財産目録等の資料を作成しますから、同じ行政書士が遺言執行を担当すれば、よりスムーズに進めることができるでしょう。