相続が開始した場合にはまず、遺言書があるかどうかの確認をすることが重要です。
遺産相続のお手続きは、遺言書がある場合と遺書がない場合では、大きく変わってきます。
遺言書がある場合は、遺言書の内容に則して相続手続きを進めます。遺言書のない場合は、故人が所有していた財産を子や兄弟など、故人の相続人で分割することになります。この場合、どのように分割するかを相続人全員で話し合う必要があります。これを、遺産分割協議といいます。
大きな金額が動く相続は、プラスとなる財産もあれば、借金などのマイナスの財産もあります。家族といえど、故人の財産の詳細がわかっていないケースもあります。
相続手続きは、人生で数回程度しか発生しない手続きですので、誰しもが戸惑いながら対応されているのではないでしょうか。専門家のサポートを受けながら進めていくなど、相続人同士でもめごとにならないよう、対処していくことが大切です。
遺書がなかった場合の、おおまかな相続お手続きは以下の通りです。
相続人の調査
相続人調査は、「相続人は誰なのか」を確認する作業です。この相続人調査を怠ると、相続トラブルの原因となる可能性があるため、遺産相続が発生した際には適切に調査を行うことをおすすめします。
具体的には、被相続人(個人)の出生から死亡までの戸籍を取り寄せて、法定相続人を調査します。相続人は把握できていることが多いですが、家族のほかに認知した子がいた場合や、孫や甥姪と養子縁組していた場合など、把握できていないこともあります。金融機関などの手続きでは、相続人であることを客観的に証明するために、被相続人の出生から死亡までの戸籍と相続人の現在の戸籍の提出が求められます。
相続財産の調査
相続人の調査と共にすぐに開始するべき調査が、相続財産の調査です。
財産調査は、被相続人(個人)が所有していたすべての財産の内容を明らかにするのが目的です。相続は、不動産・現金・預貯金などのプラスの財産、住宅ローン・借金などのマイナスの財産のどちらも含まれます。また、宝石などの貴金属や自動車などが相続財産の対象になる可能性もあります。
相続人は、相続財産を「単純承認」「相続放棄」「限定承認」のいずれかの方法で相続しますが、すべての財産を相続する「単純承認」をした後に、わかっていなかったマイナスの財産が見つかった場合、その負債を放棄することはできませんので、相続財産の調査が十分に行われなかったために不要な負債を相続することにならないよう、プラス財産もマイナス財産もしっかりと調査することが重要です。
財産は、通帳やキャッシュカード、信託銀行や証券会社からの封筒などを遺品から発見することで、取引している金融機関の支店まで調べることが可能です。 また、市役所・区役所などの行政や税務署などからの固定資産税の通知書があると、所有している不動産も把握することができます。
相続方法の決定
相続人は、相続財産を「単純承認」「相続放棄」「限定承認」のいずれかの方法で相続します。
単純承認
すべての財産を相続します。この場合、プラスの財産もマイナスの財産もすべてを相続します。
例えば、故人の財産が1,000万円で借金が4,000万円の場合、単純承認を選ぶと、1,000万円の財産を受け取ることができますが、借金4,000万円を故人の代わりに弁済しなければなりません。
相続放棄
相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産も相続しません。相続放棄をするためには期限があり、相続開始を知った日から3ヶ月以内に相続放棄を行う必要があります。手続きをしなかった場合には、自動的に「単純承認」となるので、注意が必要です。
例えば、故人の財産が1,000万円で借金が4,000万円の場合、相続放棄を選ぶと、1,000万円の財産を受け取ることはできませんが、借金を弁済する必要はありません。
限定承認
限定承認は、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ方法です。プラスの財産の範疇でマイナスの財産の返済を行うというものです。こちらも期限があり、相続開始を知った日から3ヶ月以内に限定承認を行う必要があります。手続きをしなかった場合には、自動的に「単純承認」となるので、注意が必要です。また、限定承認は相続人全員で合意した場合に限られます。相続人のなかに反対する人がいる場合にはできません。
例えば、故人の財産が1,000万円で借金が4,000万円あり、限定承認を選ぶと、弁済しなければいけない借金は1,000万円です。残りの借金3,000万円については債権者は弁済を求めることができません。
遺産の分割
遺言書がのこされていない場合は、すべての相続人で相続財産の分割について話し合う遺産分割協議をしなければなりません。遺産分割協議は、相続人全員で行います。欠席者がいる場合は、その協議は無効となるため、注意が必要です。また、相続人のなかに未成年者がいる場合は特別代理人をたてます。認知症などで物事の判断がむずがしいの人が相続人の中にいる場合は、成年後見人という代理人をたてます。
遺産分割を行わないケース
財産の名義変更
相続財産の不動産を取得した相続人は、不動産の名義を自分名義に変更する手続きをおこなう必要があります。これらの手続きを相続登記といいます。この相続登記は、義務化されています。
相続財産の金融資産を取得した相続人への名義変更は、取引先の金融機関等に必要書類を提出することで可能となります。名義変更を行わないと相続完了とならないため、遺産分割協議の後はすみやかに手続きを行うことをおすすめします。
相続手続きに要する期間
戸籍の収集や、さまざまな資料を集めたり、遺産分割協議のためのスケジュール調整など、手間と時間が多くかかります。また、遺産分割協議の場でも、話し合いが進まず、悩まれてご相談される方も多くいらっしゃいます。相続手続きには期限が設けられている手続きもありますので、相続に詳しい専門家にサポートを受けながら進めていくことをおすすめします。
相続手続きに要する期間は、一般的には下記のようになっております。
手続き | 要する期間 |
---|---|
不動産の名義変更手続き | 1ヶ月半~2ヶ月程度 |
金融資産の名義変更手続き | 4ヶ月~5ヶ月程度 |
判断能力が十分でない相続人がいる場合の手続き | 上記に加え2ヶ月~3ヶ月程度 |
相続税申告の手続き | 4ヶ月~6ヶ月程度 |
相続トラブル
遺言書がある場合は、その内容にそって相続すればよいので、手続きもスムーズですが、遺書がなく遺産分割協議を行わなければならないケースでは、相続人同士で話がまとまらず、トラブルに発展することも多々あります。相続人同士だけでは解決できない場合は、遺産分割調停を行って第三者にはいってもらうこともできますが、先の関係性が悪化してしまうこともあるので、慎重に進めた方がよいでしょう。
相続トラブルの事例
相続トラブルではどんなことが起こってしまうのか、知っておくこともとても大切です。
家庭裁判所で行う手続き
相続の手続きをスムーズに進めるために、家庭裁判所での手続きについて把握しておくことが大切です。期限の定めがある手続きもありますので、その場合は期限内に手続きを進める必要があります。
限定承認の手続き
限定承認とは、被相続人(故人)のプラス財産の範囲内で、借金や住宅ローンなどのマイナス財産を差し引く相続方法です。限定承認をする場合は、家庭裁判所へ申述する必要があります。その期限は、相続開始を知った日(被相続人が亡くなったことを知った日)から3カ月以内です。
相続放棄の手続き
相続放棄とは、被相続人(故人)のプラス財産やマイナス財産のすべてについての相続を放棄することをいいます。相続放棄をする場合も限定承認と同様、家庭裁判所へ申述する期限は相続開始を知った日(被相続人が亡くなったことを知った日)から3カ月以内です。
特別代理人の選任
相続人のなかに未成年者がいる場合には、家庭裁判所に特別代理人を選任してもらいます。相続手続きは、その未成年者に代わって特別代理人が代行することになります。
通常は、未成年者が法律行為をおこなう際には親権者が代理人となりますが、相続においては利益・不利益が生じる可能性がある場合、家庭裁判所が代理人を選任します。特別代理人は利害関係のない人物であれば誰でもなることができますが、基本的には利害関係のない親族から選出されることが望ましいとされています。
相続財産清算人の選任
相続人が誰もいない場合や、相続人全員が相続放棄を行った場合は、被相続人(故人)が保有していた財産の管理をする人を家庭裁判所に選任してもらう必要があるため、申立権者である「利害関係人」または「検察官」が申し立てを行います。
利害関係人とは、被相続人に債権者、特定遺贈の受遺者、被相続人の内縁の妻などの特別縁故者のことをいいます。また、利害関係人への対応が完了してもなお財産が残っている場合は、それを国庫に帰属させる手続きを行う必要があります。その際は、検察官が相続財産清算人の申し立てを行います
遺産分割調停
遺産分割調停は、遺産分割協議がまとまらず長引いた場合に、家庭裁判所へ遺産分割調停の申立てを行うことで、調停委員が当事者双方の主張を聞きとり、解決策の提案をします。
遺言執行者の選任
遺言執行者は、遺言書の内容に従って遺言内容を実現する人のことです。遺言執行者がいることで、手続きをスムーズに行うことができます。
遺言書に遺言執行者の指定がない場合や、指定されていた遺言執行者がすでに亡くなられていた場合は、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申立てることができます。申し立ては、家族などの利害関係者が行います。