遺産分割協議は、相続人全員で行わなければなりません。
家族がが亡くなると、その方(被相続人)が保有していた財産は相続人の共有財産になります。
遺言書がのこされていた場合は、遺言書の内容が優先されるので、遺言書に書かれた通りに財産を分割することになります。しかし、遺言書がのこされていない場合は、相続人全員で財産の分割について話し合う必要があり、これを遺産分割協議といいます。
遺産分割協議は、相続人のうち一人でも参加していなければ、その話し合いは無効になります。必ず全員出席して協議を行わなければなりません。
法定相続分の割合に納得できず受け入れられない場合には、相続人全員による合意が得られれば、法定相続分の割合に関わらず財産の分割ができる場合もあります。
しかしながら、相続人全員の折り合いをつけて合意を得ることは容易ではなく、トラブルに発展するケースは多くあります。遺産分割協議では、このような不測の事態を招くことのないようあらかじめ準備しておくことが大切です。
財産の分割
財産の分割は、民法において「法定相続分」というものが定められており、相続順位により取得分が決められています。
どのような家族構成であっても、配偶者は必ず相続人になります。ただし、内縁の妻や夫には、相続の権利はありません。配偶者以外の相続には、民法において順位が決まっています。
順位の上位者が相続人になったら、下位の人は相続人になれません。たとえば、第1順位の子どもが相続人になるなら、親や兄弟姉妹は相続人になることはできません。また、同じ順位の相続人が複数いる場合、その全員が相続人となります。
遺産分割協議をしないとき
家族が亡くなり、相続が発生すると、相続人全員で遺産分割協議をして財産の分割方法について話し合いを持ちますが、次に挙げる場合には遺産分割協議をおこなう必要はありません。
遺言書がある
被相続人が生前、遺言書を作成していた場合には遺言書の内容の通りに遺産分割を進めます。
相続人がひとりしかいない
相続人がひとりしかいない場合には、その相続人が全財産を相続しますので、遺産の分割をおこなう必要はありません。
相続人がいない
相続人がいない場合は、故人(被相続人)の利害関係のある人が相続財産清算人の申立てを家庭裁判所に対しておこないます。相続財産清算人に選任された人は、故人(被相続人)が保有していた財産管理や、借金などがある場合には債権者の精算などもおこないます。
相続人に未成年者がいる
未成年者の法律行為は、原則として行うことはできません。
このため、遺言書のない相続で、相続人の中に未成年者がいる場合には特別代理人を立ててから遺産分割協議を行います。
未成年者が法律行為を行う必要がある場合、通常であれば法定後見人である親権者(主に親)が代行します。しかし、相続手続きを行う場合は親権者も同時に相続人であることが多く、親にとって都合のいい遺産分割を行うことのないよう、未成年者の相続人には特別代理人を選任します。この特別代理人が、遺産分割協議を行います。
または、未成年者が近く成人になるといった場合には、成人になるのを待ってから遺産分割協議を行うということも可能です。
特別代理人の選任
未成年者の特別代理人の選任は、家庭裁判所にて行います。申し立ては、親権者または利害関係者が、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。対象となる未成年者が複数人いる場合には、それぞれに特別代理人を選任します。
相続人に認知症の方がいる
遺産分割協議は相続人全員が話し合いに参加し、遺産の分割方法を決める必要がありますが、認知症などで適切な判断ができない方は、法律行為である遺産分割を行うことはできません。
認知症を患う方や、障がいにより適切に物事を判断できない方が相続人の中にいる場合は、代理人が遺産分割協議をおこないます。その際の代理人を成年後見人といいます。
成年後見制度
成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害など、病気や障がいにより判断能力が不十分である方を保護・支援するための制度です。選任された成年後見人の主な業務は、必要な契約の締結・財産管理などとなります。
成年後見人を必要とする場合には家庭裁判所にて申立を行い、家庭裁判所が成年後見人として適切な人を選任します。成年後見人の対象となるのは相続人の親族、法律や福祉の専門家、市民後見人など第三者、福祉関係の公益法人などが挙げられます。
成年後見人は、財産管理をする後見人と身上監護を行う後見人とで、複数人選任される場合もあります。近年では、法律の専門家などが成年後見人に選ばれるケースが増えています。
家庭裁判所にて申立てを行っても、すぐに選任されるわけではありませんので、相続手続きの早い段階で対応する場合が多いようです。また、成年後見人は遺産分割協議の後も引き続き生活を支える立場として役割りが続くため、必要性を十分に考えてから手続きをおこないましょう。
相続人のなかに行方不明者がいる
相続人のなかに連絡がつかないひとがいるなど、行方不明の相続人がいる場合には「不在者財産管理人」を選出します。不在者財産管理人が遺産分割協議に参加することで相続手続きを進めることができます。
不在者財産管理人は、家庭裁判所に申し立てることで選出されます。申し立ては、故人の配偶者などの行方不明者の利害関係人になる人が行います。
選任された不在者財産管理人は、行方不明者本人の代わりに財産の管理や保護を行います。また、不在者財産管理人は別途「権限外行為許可」という手続をすれば、行方不明者の財産処分を行うなど、財産保存以上の行為をすることができます。
行方不明の失踪宣告
行方不明者が行方不明となって7年以上経過していると、失踪宣告を行うことができます。失踪宣告を行うと法律上では亡くなったものとみなされますので、失踪宣告された人を除いた相続人で遺産分割協議の手続きを進めることが可能になります。
特別失踪(危難失踪)
震災や災害、船舶の沈没、戦争などで行方不明となり、1年間生死が不明だった場合は、家庭裁判所に申し立てることで「失踪宣告」をすることができます。
遺産分割協議書
遺言書が見つからない場合は、遺産分割協議で話し合った内容をまとめて書面にしたものが「遺産分割協議書」です。遺産分割協議書は相続人全員が内容を確認した後、相続人全員が署名と実印で押印をして、完成します。
遺産分割協議書は相続人全員が遺産の分割方法に合意したことを証明するものですので、不動産の相続登記や金融機関での名義変更手続きにて、銀行などの担当者が「相続人全員が協議内容を合意している」ことを確認するために提出が求められます。また、後に相続人間でトラブル発生しないために、協議内容を証明する書類でもあります。
遺産分割協議はすみやかに
遺産分割協議や遺産分割協議書の作成に法的な期限の定めはありませんが、相続税申告には必要となる書類ですので、相続が発生したら速やかに手続きを進めましょう。
また、2024年(令和6年)には相続登記の義務化が施行されるため、相続登記に明確な期限が定められます。協議がまとまらないといった理由で相続を先送りするのはおすすめできません。
長い間遺産分割協議を行わなかった結果、相続関係に変更が生じてしまい、新たなトラブルが発生してしまったというケースもあります。遺産分割協議についてお悩みの方は、専門家にご相談されることをおすすめします。